多摩の大自然を楽しみながら、守る

東京都の最も西側に位置する奥多摩エリアは、夏はウォータースポーツ、秋は紅葉と、四季折々のアウトドアスポーツやアクティビティを楽しめる大自然があります。そんな奥多摩では、自然を楽しみながら、学び、自然保護につながる取り組みが推進されています。

ラフティングとゴミ拾い

「東京マウンテンツアーズ」は、青梅、奥多摩、檜原などの山間部を中心に、地域社会と観光客をつなぐ体験型ツアーを提供しています。中でも「東京SDGsツアー」は多摩地域の美しい自然に触れながら、地域課題を学ぶことができるとして、人気を集めています。ツアープロデューサーの高木誠さんは「人間は自然の一部であり、自然なしには存在することはできません」と語ります。

高木さんは、かつて旅行代理店に勤務していたころ、旅行業は観光客を送り出すことで地域貢献をしているつもりが、オーバーツーリズム（観光客の過度な増加により地元住民の生活や自然環境に悪影響を与えること）の問題に加担してしまっているのではないか、と考えるようになったそうです。住民にも受け入れられ、地域へ貢献できるような、より良い未来につながるツアーを作りたい、と考えるようになった高木さんは、東京マウンテンツアーズの理念のもと、自然を楽しみながらも、自然保護に役立つようなツアーを企画しています。

自然保護に役立つ体験型ツアーとして一番人気なのは「リバークリーンラフティング」で、このツアーでは、青梅市の御岳渓谷でラフティングを楽しんだ後、多摩川でゴミ拾いを行います。御岳渓流の水質は日本の名水百選に選ばれていますが、バーベキューを楽しんだ人々が置いていったゴミや、自然災害により流れ着いた漂流物などが、川底や川岸に目立つようになり、問題視されていました。この問題を解決するべく、参加者は大自然のなかでスリル満点のラフティングを楽しんだ後、リバークリーンという川周辺のゴミ拾いを体験します。参加者は、ゴミ問題について考えるきっかけとなり、かつ環境をより良くする一助にもなれるのです。

「私たちのツアーはSDGsをテーマにしたものが多いとはいえ、あくまで楽しんでもらうためのツアーなんです。難しい専門知識を教えるのではなく、実際に体験して楽しんでもらうことで、サステナビリティを本質的に理解してもらう。そのようなアクティビティを作ることに注力しています。地元住民によって長い間、大切に守られてきたこの地域の自然や文化をツアー参加者に知ってもらい、これらの環境を後世に残すために取り組んでいきたいと考えています。」と高木さんは想いを語ってくれました。

東京マウンテンツアーズが提供する体験型ツアーは、リバークリーンラフティングの他にも、あじさいを使ったドライフラワーのリースづくりや植樹を楽しめる体験、山と水の循環を学ぶ酒蔵見学など、この土地でしか体験できないツアーが用意されています。これらの体験は、ただ楽しむだけでなく私たちが地域を観光しながらどのように自然保護に貢献できるかを学ぶ、良いきっかけとなるでしょう。

森の冒険は学びでいっぱい！

御岳渓谷のある青梅市からさらに西へ進むと奥多摩町があります。標高1405mの御前山の山中に広がる「体験の森」と、栃寄集落に建つ宿泊施設「栃寄森の家」からなる「東京都奥多摩 都民の森」は、山里生活体験や登山教室、林業体験などのアクティビティを通して、楽しみながら山や森、林業に対する理解を深めることができる施設です。

奥多摩 都民の森は、自然豊かなハイキングコースがあり、四季折々の木々や野生動物を観察したり、御前山の日帰り登山を楽しむことができます。さらに、炭を使った火起こしや山菜採り、味噌づくり、蕎麦打ちなどの体験を通じて自然と共に生きる暮らしを知ることができたり、植樹や下草刈り、間伐、枝打ちなどの体験で森の保全について学ぶことができます。

このように奥多摩 都民の森では、自然との関わり方を学ぶための体験が数多く用意されているため、自然や自然保護に興味がある人にとっておススメのスポットとなっています。

檜原村ーサステナビリティが根付く村

青梅市、奥多摩町と同じく、東京の西部に位置する檜原村は、島しょ地域を除く東京唯一の「村」であり、都心から離れたこの村には、懐かしい日本の風景が今も残ります。
そんな檜原村の豊かで美しい自然環境や地域を将来にわたって守っていくために、さまざまな取り組みが行われています。

村の誇りあるエコツーリズム

檜原村では、2016年に「檜原村エコツーリズム推進協議会」を設立しました。この協議会は、地域の自然環境やその自然との関わりから生まれた村の歴史や文化資源を保全していき、同時に積極的に活用をしていくことで、活力ある観光地域づくりの実現を目的としています。

檜原村エコツーリズム推進協議会のメンバーのひとりに、エコツーリズム論や資源管理論を専門とする北海道大学・真板昭夫教授がいます。真板教授は「住民が村で最も誇りに思うものを紹介するエコツアーを作っていきたいです」と話します。その思いで生まれたものが「檜原村の宝マップ」です。これは檜原村の住民が観光客に紹介したい村の自然や文化、歴史スポットを選定して制作したガイドマップで、観光客はマップを片手に自らの足で味わい深いスポットを巡ることができます。さらに、季節に応じた村の見どころを紹介するカレンダーも作成し、檜原村の魅力を発信しています。見かけた際はぜひ手に取ってみてください。

また、雇用維持や自然環境保全を継続的に実施していくための取り組みとして、地元の川で獲れたニジマスを使用した缶詰「カノトアヒージョ」を商品化しています。この村では、昔から川を綺麗に保つ活動が続いており、その結果、良い水質で育ったニジマスが全国の試食コンテストで高く評価されるほどになりました。そんなニジマスをアヒージョにした缶詰の商品化は、地域のPRや土産物としての経済効果だけではなく、村の大切な自然資源を今後も残していくための取り組みにもつながっています。カノトアヒージョは「神戸（かのと）国際マス釣場」の売店か、檜原村役場そばの「ショッピングストアかあべえ屋」で購入可能です。

このように檜原村と自然とのつながりは、サステナビリティという言葉が広く使われる前から、村の文化として根付いていました。だからこそ、檜原村が推進するツアーでは「サステナブル」や「SDGs」といったフレーズを強調することより、「その土地ならではの体験」を提供することに重点を置いています。
真板教授は、SDGsのあり方について「人によってばらばらの目標ではいけません。地球を守り、地域社会を発展させるためには、全ての人々が日常生活の中にサステナビリティの視点を取り入れることが重要です。」と話します。サステナビリティが日常生活に古くから根付く檜原村で、その土地ならではの体験や地元住民との触れ合いが、自然と共存していくためのヒントとなるかもしれません。

檜原村のエコツーリズムに関する情報は、webサイトの「東京ひのはらんど」で確認することができます。現在実施中のエコツアーや過去に行われたツアー、ガイドのプロフィールなどが掲載されています。わさび田の再生や季節ごとの収穫体験など、エコで楽しいツアーが用意されているので、「東京ひのはらんど」をチェックし興味のあるエコツアーがあれば、ぜひ参加してみてください。

森のおもちゃが心を育む

同じく檜原村にある「檜原 森のおもちゃ美術館」は、子どもたちが檜原の森とのつながりを深められる体験型観光施設で、2021年に開館したこの美術館は旧北檜原小学校の敷地内に建てられています。檜原 森のおもちゃ美術館では、①世代を超えた交流の場となること、②子どもたちに木の魅力を伝えることで檜原の木材産業を活性化すること、③市民や観光客が自然と触れ合えるエコツーリズムの拠点となること、の3つを目標に掲げています。

2階建ての建物はすべて木でできており、館内にはさまざまな木製の体験型遊具があります。木のたまごプールやボルダリングなど、子どもたちが自由に想像力を働かせて遊ぶことができます。また、おもちゃと遊びを通して檜原の魅力を伝えるボランティア「おもちゃ学芸員」が常駐しており、おもちゃの使い方や木工体験をレクチャーするだけでなく、檜原の豊富な自然や文化を子どもたちに伝えるなど幅広く活躍しています。この施設では自然を大切にする心を育む地域づくりが実践されています。

檜原村の森を後世に残すために

檜原村にある林業会社「東京チェンソーズ」は、持続可能な植林や森林の育成・伐採、木材の利用を行い、未来の世代や地域のために取り組んでいる会社です。同社はそのような環境保全の取り組みにより、環境・経済・社会に対して利益をもたらす森林管理を実践していると評価される認証を取得しています。また、森林管理が果たす役割を広く知ってもらうために、森林ツアーや体験を通した環境学習にも取り組み、東京の森を後世に残す活動を続けています。

このように檜原村では、森の恵みを活かした施設で人との豊かな交流を育みながら自然の大切さを学ぶ機会を設けたり、地元企業が森を守る活動を積極的に行うなど、地域の自然環境や歴史、文化資源を次世代につなげる取り組みが行われています。

豊かな自然を未来につないでいくためにできること

多摩地域の豊かな自然は、市街地で暮らす多くの人々にとって安らぎを与えてくれます。今回紹介した地域に暮らす人々は、自然の恩恵を受けるだけでなく、この豊かな自然を未来に残していくために、環境保護や自然との共生に取り組んでいます。
そんな多摩地域の観光を楽しむことは、より良い未来をつくるヒントにつながります。自然の中でアクティビティを楽しみながら自然や文化の保護、地域社会への貢献について学びに、多摩地域へ出かけてみませんか？