銀座のビル屋上ではじめた養蜂

銀座といえば、ハイブランドが並ぶショッピングの街、高層ビルが並ぶ都会のイメージが強いのではないでしょうか。そんな銀座のど真ん中、ビルの屋上にその養蜂所はあります。2006年、10人ほどの有志で始まった「銀座ミツバチプロジェクト」。今では500人近いメンバーがこのプロジェクトに参加し、年間約2トンのはちみつを収穫しています。

「銀座ミツバチプロジェクト」が行うサステナブルな活動のひとつに環境保全があります。「銀座ミツバチプロジェクトを始めてから、すべてが生態系でつながっていることをより意識するようになりました」と、プロジェクトの副代表である田中淳夫さんは、ミツバチの重要性を熱く語ります。ミツバチは花蜜を集めると同時に花粉を運び、受粉を促すことで植物の成長に寄与するなど、農業生産の現場においても、今や欠かせない存在になってきています。

「ミツバチは、植物だけでなく、人間にとっても命の媒介者です。自然だけでなく、人と人をもつないでくれる存在です」と、田中さんは続けます。銀座ミツバチプロジェクトでは、子どもたちを対象に採蜜体験や特別授業を行い、“自然を大切にすること”、“ミツバチを通じてすべてのものがつながっていること”、“食べ物の大切さ”などを教えています。子どもたちがここで学んだことを家庭で話すことで、さらなる活動の普及へとつながっています。

「銀座ミツバチプロジェクト」のもうひとつのサステナブルな活動は、地産地消の取組です。プロジェクトで収穫したはちみつを多くの企業や個人と協力して、地元のレストランやバー、カフェなどで活用・販売しています。さらに地元の企業も取り組みに賛同し、プロジェクトで収穫したはちみつを加工した商品を販売しています。これまで、化粧品や石鹸、リップクリーム、蜜蠟（ワックス）を使用したランドセルやキャンドルなどが作られてきました。こうした地産品は、地元社会を支えるだけでなく、観光客の消費が地元経済を活性化させるため、サステナブルな旅行には欠かせないアイテムとなっています。

こうした教育や意識改革により、将来的に東京が緑豊かな都市になることを、田中さんは望んでいます。近年では銀座ミツバチプロジェクトのように、緑豊かな都市の実現に向けた取り組みが日本全国で増えてきています。銀座の養蜂場も現在では3ヶ所に増え、東京が新たな一歩を踏み出したことを物語っています。

田中さんの言葉を借りれば、「ミツバチは世界を変えることができる」のです。

ラグジュアリーとサステナビリティの両立へ

世界ではラグジュアリーなホテルほど、サステナビリティへの意識が高くなっています。東京にもラグジュアリーとサステナビリティの両立を目指すホテルがあるのをご存知でしょうか？

千代田区にある帝国ホテルは、1890年に日本初の西洋式高級ホテルとして開業して以来、環境に配慮した活動を続けています。SDGs達成への取り組みが注目される以前から、サステナブルな取り組みを統括する「環境委員会」を設置しており、2020年に「サステナビリティ推進委員会」と改名しました。

「今日では、日本のホテル業界全体がSDGsに積極的に取り組んでいます」と、帝国ホテルSDGs推進担当課長の平石理奈さんは言います。帝国ホテルでは、平和とホスピタリティ、そして「誰一人取り残さない」という理念に基づき、お客様のご要望にお応えできるよう一心にサステナブルな取り組みを行っています。平石さんは続けて、「サステナビリティは、お客様がホテルを選ぶ際の基準のひとつです。だからこそ、お客様がラグジュアリーな滞在を心から楽しめるような環境づくりを心がけています。そうすることで、従業員もサステナビリティを大切にするホテルで働くことに誇りを持つことができるのです」と語ります。サステナビリティは、環境配慮への意識が高い優れた人材の確保やより良い環境づくりへとつながっています。

近年、サステナビリティの観点からホテル業界で大きな課題となっているのが、食品ロス問題です。帝国ホテルではこの問題に対して、まず、各テーブルに置かれたタブレット端末で料理を注文するオーダーバイキングを導入しました。また、その他の取組として生ゴミのコンポスト化や食品ロスの内容のデータ化、さらに特に効果をあげている対策として従業員食堂の自営化に取り組んでいます。これはレストランやバンケットで余った食材を従業員食堂のメニューに活用することで、食品ロスを4.5%削減することができました。加えて、従業員食堂を調理スタッフ自らが発案・開発したメニューを提供できる場としたことで、調理スタッフのモチベーションの向上にも寄与する、素晴らしい取り組みとなっています。

食品ロス対策に加えて、帝国ホテルでは、使い捨てプラスチックの削減にも取り組んでいます。例えば、ミネラルウォーターはペットボトルではなく、紙パックのものを全館・全室に提供しています。また、お客様に提供するアメニティを自然へと還る生分解性の製品にプラスチック製品から一新するなどの取り組みも行っています。こうした取組の結果、プラスチックの使用量を92％削減することに成功しました。アメニティを一新するための初期費用は少しかかりますが、竹製や木製等の環境配慮型製品を使うことで、経費削減になります。プラスチック使用量を削減し再利用を促すことで、環境と経済の両面から、帝国ホテルはサステナブルな社会を支えています。

「ホテルがこうしたサステナビリティを進める際に重要となるのは、お客様にも取組を知っていただくことです。そのため、お客様とのコミュニケーションはとても重要です」と、平石さんは言います。
帝国ホテルでは、サステナブルな取り組みや想いを記したカードを各部屋へ用意しています。さらに、興味のあるお客様はQRコードを読み取ることでより詳しい内容を知ることもできます。こうした取組をはじめ、常にお客様とコミュニケーションを図り、いかに理解していただくか模索した結果、サステナブルな取り組みに対して、好意的な意見が数多く寄せられるようになりました。また、帝国ホテルでは、サステナビリティを体験できるイベントも開催しています。SDGsについて学べる子ども向けの宿泊プランでは、クイズを渡された子どもたちが、解答を求めホテル内を探索し、従業員にSDGsについて質問することで理解を深めます。そのほかに、年に２回、料理長と共に学ぶランチセミナーを開催し、サステナブルなトピックについて一緒に考える機会を設けています。その他サステナブルウェディングプランなど、魅力あるイベントを企画することでサステナビリティを効果的に推進し、お客様や地域社会への働きかけを拡げています。

今、日本のホテル業界全体が、意識の向上、教育を通じて業界のあり方を変えていこうと動いています。紹介したような前向きでサステナブルな活動が従業員やお客様にサステナブルな社会をより身近に感じてもらうことにつながります。そして、それが人から人へと伝わることで、地域へと浸透していき、新しい未来を形作る鍵となっていきます。

東京スカイツリー®における多様性と受容性

2021年、墨田区はSDGsへの取り組みが評価され、「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選ばれました。そんな墨田区にある有名な建物のひとつに、東京スカイツリーがあります。こちらは開業以来、LED照明、雨水貯留タンク、ソーラーパネル、エネルギー効率の高い地域冷暖房システム（DHC）などを採用し、サステナブルな取組を率先して進めてきました。加えて、環境への配慮の面だけでなく、「ジェンダーの平等」「不平等の削減」といった、健康で幸せな生活を誰もが送るために必要不可欠な課題にも積極的に取り組んでいます。

2020年、東京スカイツリーでは、女性社員向けにパンツスタイルのユニフォームを採用し、既存のユニフォームであったスカートスタイルとともに自由に選択できるようになりました。同時に靴についても、ヒールのない靴を着用できるようになりました。それまで、女性社員はスカートを着用し、3センチ以上のヒールがある靴を履くことを義務付けられていました。東京スカイツリー広報事務局主任である丹羽あゆみさんは、制服のガイドラインを見直す中で、女性社員のルールの多さに改めて気づいたそうです。「男女平等に扱われることは当たり前のことであると頭では理解していても、無意識に男らしさ女らしさの価値観に縛られているため、意識的に考えなければこうした差別に気がつけない」と丹羽さんは言います。無意識に男女はこうあるべきというジェンダー・ロールに従っていましたが、メディア報道等で扱われることが増えたことで、ジェンダーについて考える機会が増えたそうです。

人気の観光スポットである東京スカイツリーには、人種、性別、年齢を問わず多くの観光客が訪れます。2021年、東京スカイツリーは、世界中の人々の団結や平等を願う「W1SH RIBBON DISCOVER & CONNECT THE WORLD」キャンペーンを始めました。
当初このキャンペーンは、訪れた人が願い事を書いて展望フロア1階にあるモニュメント「Tree of Hope」に結ぶという、シンプルな企画からスタートしました。ところが、偶然このプロジェクトに出会った、世界で活躍する写真家のレスリー・キーさんが「このプロジェクトは世界に発信されるべきものだ」と強く賛同し、東京スカイツリーとコラボしたミュージックビデオを制作、公開しました。このミュージックビデオは、バックグラウンド、性別、性的指向、年齢の異なる人々で溢れた作品となっており、多様性と受容性を広く伝えるものとなりました。
「東京スカイツリーでは、国籍は関係ありません。すべての人が願いを持っており、ここでは誰もがその願いを表現することができます。」と丹羽さんは言います。

加えて、東京スカイツリーでは多様性に配慮し、施設内にイスラム教徒向けの礼拝スペースを設置、民族的な制限に対応した食事メニューの追加、東京スカイツリータウンのバリアフリー化なども行っています。

サステナブルな都市のリーダーとなりえる東京

人口が1400万人を超える東京は、世界でも有名な都市の一つであり、東京のサステナブルな行動は世界から注目を集めています。
今、日本人の考え方は大きく変化し始めており、今回紹介した銀座ミツバチプロジェクト、帝国ホテル、東京スカイツリーだけでなく、様々な業種・業界で大小問わず多くの企業が、サステナブルな取り組みを日常業務などで積極的に取り入れています。こうした取組の積み重ねが東京全体としてのサステナビリティにつながっていき、持続可能な都市として世界をけん引する一歩となるでしょう。