知る楽しみ再発見
国枝さんとめぐる 東京インフラツーリズム
東京駅周辺は、知的好奇心を刺激するインフラ施設の宝庫。交通の要である東京駅から、東京都下水道局のポンプ所を含む新たな街「TOKYOTORCH 」、日本銀行本店など、テニス界のレジェンド・国枝さんとめぐる“最強”社会科見学ツアー。
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東京駅周辺には、交通や下水道、郵便、紙幣などのさまざまなインフラ施設がある。東京駅丸の内口、ドームの干支の彫刻を見上げ、「じっくり見るのは初めてです。ねずみはあるかな?」と探す国枝慎吾さんは、1984年の子年生まれ。9歳のとき、車いす生活となり約30年。東京は、どのように変化しただろう。
「当初は、どんな施設もほとんどがバリアフリーではなく、鉄道もエレベーターがない駅が多かった。少しずつ整備されていき、オリンピック、パラリンピックを経て、今はとても便利に変わったと感じています」
プロフィール
国枝慎吾(くにえだしんご)さん
1984年生まれ。千葉県出身。9歳のとき、脊髄腫瘍のため車いす生活になる。11歳で車いすテニスに出合い、2009年にプロ転向。四大大会とパラリンピックで優勝し、生涯ゴールデンスラムを達成。座右の銘は「オレは最強だ!」。2023年1月、世界ランキング1位で引退。現在、幅広い分野で活躍中。
インフラツーリズムとは?
ダムや港湾施設、電気、ガスなど生活や産業の基盤となる設備や施設をめぐる観光。
街へと進化した日本の玄関口東京駅
東京駅の丸の内駅舎は1914年(大正3)開業当時の姿に復原。南北ドームの8つの角には干支の方位に従って十二支のうち子、卯、午、酉以外の八支の彫刻がある。JR東京駅としての2022年度の年間乗車人員は34万人以上。
東京駅を後にして東京中央郵便局が入るKITTEをめぐり、TOKYO TORCHの一画にある中部下水道事務所のデジタルサイネージで、省エネや節電などの取り組みを学習。それから、常盤橋を「関東大震災後の復興計画で建設されたんですか!」と驚きながら車いすで渡る。
歴史ある郵便局長室も!KITTE(東京中央郵便局)
旧東京中央郵便局舎の一部を生かし、2013年に商業施設となったKITTE。隈研吾が「日本」をテーマに内装環境設計を行った。1931年(昭和6)に建てられた旧局舎の姿を残す低層棟の4階に旧東京中央郵便局長室がある。
都心にも下水道のポンプ所が⁉東京都下水道局 中部下水道事務所 銭瓶町ポンプ所 (TOKYO TORCH)
東京駅日本橋口前のTOKYO TORCH街区には、大手町などの汚水を地表近くまで汲み上げ、水再生センターに送水しているポンプ所がある。東京都下水道局は同所の銭瓶町ビルディングに中部下水道事務所を構え、外壁のデジタルサイネージで浸水対策などについて映像を公開。
文明開化を支えた日本橋川常盤橋
日本橋川に架かる常盤橋は関東大震災後の復興計画で建設されたコンクリート製。上流側の常磐橋は1877年(明治10)に木造から架け替えられた都内最古の石橋で、古写真などをもとに2021年修復。さらに上流には新常盤橋も。
試合では世界各地に遠征、プライベートでは奥様と日本全国を旅行するという国枝さんだが、意外にも「東京は未開拓」だったそう。「インフラツーリズムという言葉を知り、それが都心でできることが新鮮。東京には、日本の主要な施設が集まっているんだと実感しました」
年を重ねるごとに、知への欲求が高まっているという国枝さんは、最後に訪れた日本銀行本店でも興味津々だ。破れたお札でも一定基準を満たせばきれいなお金に引き換えてくれるという説明に耳を傾け、2024年改刷される新札の3次元ホログラムなど偽造防止技術を見学、模擬券を持ち上げて「1億円ってこんなに重いんだ。〝お札〞で持つと思ったより重い!」と笑う。「小学生のときに行った社会科見学とは違って、おとなになった今だからこそ感じる楽しさがありそうですね」
1億円の重さを体感日本銀行本店
お札(日本銀行券)の発行、流通、管理を行う国内唯一の発券銀行である日本銀行。日本銀行本店本館は1896年(明治29)に竣工した辰野金吾による日本初の国家的近代建築で、インターネットの事前予約で見学可能(無料)。歴史や機能、建築の様式を学べるだけでなく、総重量25トンの金庫扉を間近に見たり、1億円(模擬券)に触れたりできる。
2023年1月に現役を引退し、これから自分は何ができるのか、何にチャレンジしていくかを見つけているという国枝さん。「その一つとしてアメリカに留学し、語学とテニスのコーチとしての勉強をする予定です。
選手時代は、海外に行ってもその土地の文化に触れる時間が少なかったので、観光もしてみたいです」
調べなくても大丈夫。そんな未来へ
新たなスタートを切る国枝さんに、これからの東京観光に期待することを聞いてみた。
「僕はお風呂が好きなんですが、事前に車いすで行ける温泉か調べる必要がなくなる、そんな未来があったら、どんな障害を持っている人にとっても、観光がずっと身近になるんじゃないかなって思います」
東京都は「誰にでも優しく、どこへでも行ける東京」を目指している。「インフラツーリズムもグルメめぐりも、東京で完結できる。外国人だけでなく、改めて日本人にとっても、楽しくて安心な街だと思います」