多摩地域の農業に触れ、地産食材のおいしさに出会う
多摩グリーンツーリズム 開催レポート

2023年10月、「あしたの東京プロジェクト」の第一弾となるイベント「多摩グリーンツーリズム」が開催されました。伝統的に生産されてきた“江戸東京野菜”をはじめ、多くの農産物が生産されている多摩地域。同イベントは、そんな東京の農業が持つ魅力を体感できるツアーです。本記事では、10月14日(土)に立川市で開催されたツアーをレポートします。

緑豊かな立川市で、地元野菜の収穫体験

多摩地域の中部に位置し、多くの人が暮らす立川市。市街地を離れると多摩川や玉川上水、国営昭和記念公園などがあり、水や緑が豊かな一帯が広がっています。実は農業も盛んであり、「東京うど」や「ブロッコリー」は都内トップの生産量を誇るほど。魅力ある“東京の食”の生産地が、今回のツアーの舞台です。

秋晴れに恵まれた当日、参加者は市内北部にある食育施設「スマイルキッチン」に集合。開会式でツアーの流れが説明された後、A・B、2つのチームに分かれてアクティビティを行いました。

今回同行したAチームは、最初に「スマイル農園」へ足を運びました。立川で代々続く農家であり、季節に応じてさまざまな野菜を生産。定期的に体験農園も開催しており、普段は農業に馴染みのない住民や子どもたちが、野菜に親しむ機会を提供しています。今回のツアーで参加者は、小松菜とラディッシュ、トマトの収穫を体験。農園を運営する豊泉裕さんの指導のもと、ビニールハウス内で栽培される野菜に触れていきます。

豊泉さんによると、小松菜やラディッシュは、気温に応じて生育状況が大幅に変化するそうです。そうした中でもすくすくと育つ野菜は、味はもちろん、色や大きさまで丁寧に管理されています。細かな作業の一つ一つが、培った経験の賜物なのでしょう。実際に収穫をしてみると、特に土の中にあるラディッシュの根は、大きさを見分けるのが難しく、農家さんの熟練した技術を、身を持って感じることができました。

収穫を終えたら、つづいてサニーレタスの苗付け体験です。育苗ポットに小さな苗を植え、育てられる状態にしていきます。ポイントは、空気が入らないように土を押して圧力をかけること。空気による乾燥で水分が逃げないようにするためです。大人も子どもも苦戦しながら、慣れない作業を楽しみました。

体験を終えると豊泉さんが、東京で農業を行うことについて語ってくれました。

「スマイル農園では、年間で45種以上の作物を育てています。今年はネギやニンジンのように、猛暑の影響を受けた野菜が多かったです。東京は人間にとって住みやすい土地ですが、それは虫や菌も住みやすいということ。それだけ手入れも大変になります。皆さんには手間暇かけた東京の野菜を、旬を感じながら味わってほしいですね。」

収穫した野菜とサニーレタスの苗は、自宅に持ち帰ることができます。自らの手で収穫した袋いっぱいの地元野菜を味わうことを、参加者の皆さんは待ち遠しく感じている様子でした。

長い歴史の中で愛された、「東京うど」の農園を見学

収穫体験を終えた後は、「須崎農園」へと向かいます。須崎農園は、江戸東京野菜であるうどの農家です。通常の「山うど」とは異なる真っ白な「東京うど」を栽培しており、芳醇さとアクの少なさが特徴です。今回は農園を見学することで、うど栽培への理解を深めていきます。

須崎農園へと向かう道中で参加者は、植木の生産・販売を行う「須崎園」の見学を行いました。植木農家の須﨑善治さんによると、立川では植木生産も盛んなのだそうです。普段私たちが庭や公園、商業施設やテーマパークなどで親しんでいる植木も、こうした農家さんの手で育てられているのです。植木生産の現場を初めて目にする参加者も多く、一同は興味津々でした。

その後、参加者は農園内にある穴蔵(通称「ムロ」)付近に到着。立川市うど生産組合の宮野英仁さんが、うど栽培の方法や歴史についてわかりやすく説明してくれます。うど栽培の歴史は江戸時代に遡り、愛知県から株根が持ち込まれたことから、北多摩エリアで盛んになりました。東京うどの特徴は、地下3メートルの穴蔵で株根を栽培すること。この方法により、えぐみのない、美しい真っ白なうどに育つのです。

参加者には、うどを栽培する地下の穴蔵の中に入る、貴重な体験が用意されていました。梯子を使って下へと降りると、そこに広がるのは、ほんのりと温かい、真っ暗な空間。関東ローム層にあたる地下部分は、赤土により夏も冬も一定の気温が保たれるのです。ブランド野菜を静かに育ててくれる、自然の恵みが感じられます。

地産食材を食べながら、生産者の方々と交流

農園での体験・見学で汗をかいたら、お待ちかねの「ランチ交流会」。今回参加者は、多摩地域で農業に携わる方々とともに、お弁当を楽しみました。

今回お弁当をご用意いただいたのは、立川で弁当販売を手掛ける「うまいもん処 弁慶」さん。立川産のブランド豚「柔豚(やわらとん)」や、立川名産のブロッコリー、立川産の卵を使っただし巻き卵など、ふんだんに地元の食材が使用されています。なかでもお浸しの小松菜は、スマイル農園で収穫されたもの。生産プロセスを知って食べることで、いっそう美味しく感じました。

テーブルの上では、「なぜ立川では農業が盛んなのですか?」「B級品の野菜はどのように処理するのですか?」「農業をする前はどのようなお仕事をしていたのですか?」など、参加者から農家の方に素朴な質問を行う光景が見られました。食材へのこだわりや農業の大変さ、そこから生まれるやりがいなど、農家だからこそわかる情報も共有されていきます。

交流会では、立川市産業振興課 農業振興係長の小室正広さんの進行によるトークセッションも行われました。五日市街道に沿って農地が広がる立川市は、北多摩にある17の市でも、農地面積や農家数、産出額においてトップ。野菜、果樹、植木、畜産と、さまざまなものを育んでいます。一方で、土地に限りのある都市農業では大量生産ができないため、ブランドマーク「立川印」をはじめとした認知向上の取り組みも重要になるそうです。また高齢化や後継者不足により、休耕地や農家の廃業が増加しているため、市でも積極的に農業振興を進めていると説明されました。

地産食材を味わいながら、地域の農業を学んでいく。和やかな交流の中にある、ちょっとした発見を、皆で楽しむ時間となりました。

都市農業との出会いで感じたことを、オリジナルランタンに込める

食事を終えた参加者は、「ランタンワークショップ」を体験します。ツアー当日の体験や交流を振り返り、メッセージやイラストを自由に記入したランタンを作成するワークショップです。ランタンには多摩地域で廃棄予定のペットボトルと和紙を用い、底にLEDライトをつけることで、美しくメッセージが浮かび上がります。

今回作成されたランタンはあしたの東京プロジェクトのフィナーレイベントである「東京ランタンセレモニー」の会場で灯され、たくさんの東京都民の思いを共有するために活用される予定となっています。

作成されたランタンのメッセージには、「食べてわかった 東京の魅力」「自然豊かな立川で育った野菜や肉で 笑顔・元気いっぱい」「土から生まれた 旬のおいしさ!」など、東京や農業の魅力が伝わる内容が多数集まりました。ツアー内で農業を体験した子どもたちも、可愛らしいイラストを描きながら自身が感じた農業の楽しさや東京のいいところを伝えてくれました。

実はこの日、立川駅の周辺では「第35回立川よいと祭り」が開催されていました。また一週間前の10月7日(土)には、多摩ニュータウン豊ヶ丘・貝取エリアにて「多摩ランタンフェスティバル2023」が行われました。この二つの多摩地域でのイベント内でも、あしたの東京プロジェクトはランタンワークショップを実施しており、たくさんの方々から個性あふれるメッセージが集まりました。

地産地消の拠点「みのーれ立川」で、思い出を持ち帰る

つづいてバスで移動した先は、「ファーマーズセンター みのーれ立川」です。同所は、立川市内で生産された農畜産物の提供や地域の情報発信、市民交流を提供する施設。新鮮な地元の農産物が並ぶ直売コーナーがあり、参加者はツアーで巡った農園の食材がどのように流通するかを体感しました。

一同を迎えたみのーれ立川の小山伸二店長は、施設の機能を解説してくれました。オープンして10周年を迎えるみのーれ立川は、一見は道の駅と似ていますが、農協が運営し、市が建物を管理しているのが特徴とのことです。立川ならではの食材が揃っており、「うどドレッシング」や「フルーツジャム」などの加工品も人気で、日々周辺地域の買い物客で賑わっています。

小山店長による説明の後、参加者はみのーれ立川の中を自由に散策し、地元野菜をはじめとしたお土産を購入。ツアーの思い出を形にして持ち帰りました。

農業が盛んな立川は、たくさんの発見で満ちていた

ツアーを終えた参加者に、今回の感想を聞きました。

「私はドイツ出身で、日本に来て1年ほどが経ちます。東京というと渋谷や新宿のような、にぎやかなイメージしかなかったのですが、広い農地でさまざまな食材が生産されていることに驚きました。静かで自然が多いのが、東京の意外な魅力です」(三鷹市在住)

「“大人の社会科見学”をしてみたいと、地元の友人と参加。農家の方々と直接会話をし、若い担い手が減っているなどの課題などを知ることができました。地域の声に触れることはなかなか少ないのですが、私は学校で教員をしているため、次の世代に農業の課題や魅力を伝えたいです」(小平市在住)

「もともと料理やグルメが大好き。普段食べているものが、どのように作られているのかを知りたいと参加しました。立川駅前には何度か来たことがあったのですが、市街地から離れると農地が広がっていることに驚きました。収穫した小松菜の手触りが印象的で、これからも立川印を見つけたら買いたいと思います」(稲城市在住)

「普段からみのーれ立川を利用しているのですが、慣れ親しんだ野菜や果物の生産工程を知ることができました。子どもが全く野菜を食べないのですが、収穫体験はとても楽しそうでした。少しでも魅力に気づき、興味を持ってもらえたらと思っています」(昭島市在住)

「うどが好きなのですが、育っているところを見たいと参加。穴蔵の存在を知らなかったので、中に入って『こんなところで育っているのか』とびっくりしました。地元農家さんのお話を聞いて、制限の多い都市農業の困難もわかりました。あの穴蔵に高齢者が入る難しさを想像すると、後継者不足の問題も現実的に感じます」(青梅市在住)

課題を発見したり、未来に期待したりと、さまざまな声が集まる「あしたの東京プロジェクト」。ウェブ上でも都民の皆さんから“地元”東京の魅力や未来への期待などのメッセージを募集しており、フィナーレイベント終了後、モザイクアートの形で作品化することを目指しています。ご興味がある方は以下のURLより概要をご覧ください。

<モザイクアートの概要>
https://pfmb.cdn.msgs.jp/kj2x/pfmb/mosaic_art_gaiyou.pdf

都市農業が抱える課題を、東京の皆に知ってほしい

こうして1日の多摩グリーンツーリズムは無事に終了。運営に携わった公益財団法人東京観光財団の菊重さんは、「緑に恵まれた立川市は、農業が盛んである地域。東京の多摩地域には他にも、江戸東京野菜をはじめ魅力ある食材を生産する街が数多くあります。一方で、後継者不足をはじめとした障壁もあり、地元の人だけでは解決が困難です。今回参加していただいた皆さまを起点に、東京の新たな魅力が多くの方々へ幅広く共有されていけばと思います。今後も地元・東京への愛着を深めていただけるきっかけとなるイベントを企画していきたいです。」と、イベントを振り返りました。

あしたの東京プロジェクトではイベント第二弾「東京島ネイチャーツーリズム」を12月16日(土)~12月17日(日)の二日間、神津島で開催予定です。
豊かな水に恵まれた島として知られ、2020年に東京都で初めて星空保護区に認定された神津島に根付いている“水”や星空保護の取組を学びます。トレッキングや星空観察など様々なプログラムを通して島の魅力を体感していただけるツアーとなっていますので、ご興味がある方は公式サイトで概要をご確認いただいたうえ専用フォームよりお申し込みください。

<公式サイト>
https://tokyotokyo.jp/ja/action/tokyo-tomorrow-project-2023.tokyotokyo.jp/

少しでも多くの人に現地の様子を知ってもらえるよう、当サイトでは引き続き情報発信に努めていきます。ぜひご覧ください。