津田健次郎がアニメーションをキーに紐解く“東京”
さまざまなアニメーション作品の舞台として描かれてきた東京。変わることを厭わず進化を続けながら独自の文化を育んできた東京の、時代時代の表情がアニメーション作品に記憶されていく。俳優・声優として活躍する津田健次郎と渋谷の地を巡りながら、東京の魅力を“アニメーション”をキーに紐解いていく
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プロフィール
津田健次郎
大阪府出身。声優業、俳優業を中心に幅広く活動。最近の出演作にテレビドラマ「グレイトギフト」(テレビ朝日系)、映画『マイホームヒーロー』(3月8日全国公開予定)など
津田健次郎|作品が東京を記憶する
東京という街はこれまでに数多くのアニメーション作品の舞台として描かれてきた。津田が七海建人の声を演じた『呪術廻戦』「渋谷事変」も、東京の渋谷が舞台だ。渋谷が作品の中に描かれることは、津田にとってどのような意味を持つのか。
取材を行ったのは2023年11月29日。七海の最期が描かれた42話(第2期18話)の放送を終えたばかりだった。作品への思いを訊いた。
「アフレコ時はまだ映像がフルカラーではなく、動きがわからない部分も残っている状態なので、リアルタイムでオンエアを観て『こういう感じになったんだな』とあらためてわかるのですが、無言のシーンも含めて本当に贅沢な演出になっていました。監督を筆頭にスタッフの皆さんが試行錯誤しながら渾身のアニメーションを生み出してくださったんだと、これ以上ない贅沢な退場の仕方をさせていただいたなと本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
渋谷が舞台であるがゆえの緊迫感について、津田はこう話す。
「作品の中ではものすごく恐ろしいことが渋谷で起きていて、地下鉄でこんなことが起きてしまうのか、などという恐怖感みたいなものはあります。渋谷の街の風景が生々しく描かれていて、季節的にもオンエアと内容が被る部分もあったりするので、そのリアリティはやっぱりすごいなと思います」
そもそも津田にとって渋谷はどのようなイメージを抱く街なのだろう。
「渋谷には東京に出てきた頃からよく来ていました。ここ数年で見事に別の街に変貌していますよね。街自体の構造がどんどん変わり、今でもまだ工事が続いているので、さらに違う街になっていくんだというのが寂しいと同時に、面白くもあります。都市が変貌していくことで、人の流れや、住む人や訪れる人の雰囲気も変わってきてそこも面白いですね。いまだに古い飲み屋街や街並もギリギリ残っていて、新しさと融合している。その面白さを、ずっと感じていました。渋谷は本当に不思議な構造なんですよね。その名の通り“谷”なので渋谷駅を中心に坂道が広がっていて、上る方向によって空気が全く違う。公園通りを上るとファッショナブルで時代の最先端がそこにある感じですが、道玄坂を上っていくと猥雑さがあって。東急本店の裏手には、日本で最もアッパーだと思う松濤という超高級住宅地がそびえている。時代と共に変わっていくのは都市のあるべき形なのかもしれないですが、こういった文化が入り乱れる面白さが残ってくれると嬉しいなと思っています」
「津田にとってかけがえのない場所が、渋谷にあることを教えてくれた。
「お金のない頃から、『名曲喫茶ライオン』にはよく行っていました。賑やかな渋谷にあって、エアポケットのように急に静かな場所なんですよね。名曲喫茶なのでクラシックが流れていて、基本的に私語は禁止。席は全部前を向いていて、コンサートホールの様相を呈している。曲のリクエストもできて、“今月のプログラム”もある。もう本当に、なんと愛すべき喫茶店なんだろうと。仕事がなくて、時間があることが逆にネガティブだった頃にふらっと一人で入って、考えごとをしたり何か書いてみたり。本当にいい時間をくれた喫茶店ですね」
東京を歩く面白さを、津田はどう捉えているのだろうか。
「東京はカラーの全然違う繁華街で構成されていて、渋谷の猥雑さと新宿の猥雑さもまた違いますし、最先端の都市でもありつつ、銀座に行くとハットを被った着物のおじいさんが歩いていたり、上野や谷根千には昔ながらの懐かしい景色が残っていたりします。時代ごとにバラバラにいろんなものが生まれてきた都市の面白さが東京にはあって、文化の在り方としても独自の形成のされ方をしている。これは海外の都市も含めて他ではなかなか生まれないカルチャーの形だなと思います。東京は、アニメーションで描きたくなる都市なんだろうな、と」
変わり続ける街、東京。その景色が作品の中に描かれることの意味とは。
「それこそ『渋谷事変』で七海が活躍していた東急百貨店本店ももうないわけですよね。どんどん変わっていく。その景色が、漫画そしてアニメーションの中に記憶されていく。これから『渋谷事変』は、『かつて渋谷はこうだった』と知るひとつのツールになっていくんだと思います。報道の写真だけではなく“作品”として、その都市に息づく人々の営みが描かれていたり、フィクションとして紡がれていたりすることは、すごく意義深いことだなと思います。これからも東京は変わり続けていくでしょうから、どうなっていくのか楽しみです」
- PHOTOGRAPHY&MOVIE: GOTO TAKEHIRO
- TEXT: INO SHIN
- STYLING: ONO CHIAKI
- HAIR&MAKE-UP: HARATA TAKEHIKO