島のサステナブルな食文化
「食」は何千年もの間、それぞれの地域に脈々と受け継がれています。
家族や地域の人々を繋ぐ郷土料理は、単なる昔ながらの懐かしい味というだけではなく、その地域特有の歴史や文化を今に伝えてくれるものです。
今回は東京の島々におけるサステナビリティとその土地に根ざした豊かな食文化を見ていきましょう。
東京都には、都心から南に約100〜1000km離れた場所にいくつもの小さな島があることをご存じでしょうか。現代においても豊かな自然と独自の地域文化が根付いている東京都の島しょ地域では、その独立した環境から、各地の資源を活かした郷土料理が数多く生まれてきました。今も島に伝わる食品保存法や酒造り、地産食材の活用など、まさにサステナブルな習慣が受け継がれています。
東京の島々では、地元ならではの食材を味わう食体験や農業体験といったサステナブルツーリズムを提供しています。観光客は島の経済や伝統的な習慣を守る役割も担っているのです。それでは、東京の島々のうち3つの島の事例をご紹介しましょう。
大島の農産物直売所
青ヶ島での
持続可能な
酒造り八丈島の
名物居酒屋東京の島々の
持続可能な食文化
大島の農産物直売所
東京の南約100kmに位置する大島は、伊豆諸島最大の島であり、火山で形成された地形で知られています。裏砂漠の黒砂や三原山の巨大なカルデラなど、エキゾチックな風景が観光客たちを惹きつけます。また、三原山の火山活動によってもたらされたミネラル豊富な土壌は、実り豊かな作物を育てる大事な要素です。そんな大島の新鮮で旬な食材を味わうことができるのが、島の北端にある農産物直売所「ぶらっとハウス」です。
2019年に設立された「ぶらっとハウス」は、地産地消に特化した農産物直売所です。木造の素朴な施設内では、野菜や花などの生鮮品や牛乳やバターなどの加工品を販売しています。また併設のカフェでは、大島牛乳と旬の食材で作ったおいしいジェラートやソフトクリームを楽しむことができます。
地元農家にとってぶらっとハウスは、商品販売の場所でありながら農家同士や観光客との交流の場にもなっており、大島で農業を続ける上で欠かせない場所となっています。
またぶらっとハウスでは、大島の農作物のブランド化や遊休農地の活用、地元農家の支援など島の農業を多角的にサポートする活動にも取り組んでいます。
大島には、葉物野菜の「あしたば」や「椿油」などの特産品が数多くあります。中でも魚を塩漬けして乾燥発酵させた「くさや」は島の名物です。一般社団法人ぶらっとハウスの理事であり、一般社団法人大島観光協会の専務理事を務める千葉努さんに好きな大島の食べ物を伺ったところ、「くさやです。好きな理由は説明できませんが、くさやには何か特別な魅力があり、食べ始めると止まらなくなります。」と笑顔で話してくれました。しかし千葉さんは「くさや生産の継ぎ手がだんだん減ってきているので、いつか幻になってしまうのではないかと心配しています。大島ならではの貴重な食文化を繋いでいきたいです。」とも話します。ぶらっとハウスでは、くさやなど大島の特産品をブランド化し普及させることで、大島の伝統的な食文化を守り伝える役割も担っています。
ぶらっとハウスでは観光客に大島の農業を知ってもらうために、玉ねぎ収穫体験や芋掘り体験など季節に応じたイベントを開催しています。ウェブサイトでは、こうしたイベントの告知やレポートを特集し、地元農家とつながる機会を増やしています。
最も賑わいをみせるイベントが、年に4回開催される「ぶらっとマルシェ」です。このイベントでは、施設周辺もフリーマーケットのように様変わりし、限定品や珍しい農作物も店頭に並びます。千葉さんはイベントについて、「島民同士、島民と観光客の交流ももちろんですが、島に移住してお店を始めたいという若手の方の支援にもなっています。島を訪れる人々が地元の食文化に興味を持つことで、再び島を訪れるきっかけになればと願っています。」と話します。
ぶらっとハウスは観光客にとって、大島の伝統的な食文化を体験するだけでなく、その食文化を守るお手伝いができる場所となっています。
大島の農産物直売所
青ヶ島での
持続可能な
酒造り八丈島の
名物居酒屋東京の島々の
持続可能な食文化