無限の星が広がる、神津島

神津島は都心から南に180kmの位置にある面積約18.5平方kmの島です。透き通った海と美しい白砂が続く海岸に加え、島の中央には花の百名山に数えられる天上山があり、シュノーケリングやダイビング、ハイキング、バーベキューと海も山も楽しめる人気のリゾート地です。そんな神津島の最たる見どころは、太陽が沈んで島全体が真っ暗になると頭上に現れる、満天の星空です。

神津島ではこの唯一無二の星空を守るため、光害対策や教育プログラムに積極的に取り組んでいます。2020年春には、島内にある街灯を、光害を最小限に抑えたものへ取り替える事業を開始しました。街灯を取り替えることで生じる安全面の不安は、島民に対して講演会を行うことで解消しています。他にも、子どもたちが夜空を大切にする心を育み、地域活性化へつなげることができるよう星空ツアーを開催するなど、教育にも力を入れています。
こうした取組が評価され、神津島は2020年12月、国際ダークスカイ協会から「星空保護区（International Dark Sky Place）」に認定されました。
また、神津島の光害対策は夜空を美しくするだけでなく、絶滅の危機に瀕した野生動物の生息地の保全やエネルギーの節減にも効果があるということも分かりました。

神津島では「星空保護区」認定の3年前（2017年）から、島民を対象として「神津島星空ガイド養成講座」を開設しました。講座では、季節ごとの星空の見どころや星座のルーツ、星の見つけ方などを座学と実地で学び、年間を通して星空ツアーを実施できるガイドを養成します。さらに、星空保護区認定について、観光客に伝えることができるよう光害対策なども講座に取り入れています。

今では、この島民ガイドによる星空ツアーは神津島観光の目玉となっており、夜空のすばらしさを通じて人々に神津島の文化や環境を守る大切さを伝えています。観光客は、島の経済を活性化させ、地域を支える役割を担っています。

神津島は「星空保護区」の取り組みを通じて、この先も長年にわたり人々の心を魅了するような持続可能な社会を創ろうとしています。

バードウォッチングの楽園、三宅島

東京の南約180kmに位置する三宅島は、活火山を有する雄大な火山景観がみられる島です。 火山の噴火によって形成された荒々しい海岸線や美しい森、澄んだ海が冒険家たちの心を魅了します。黒い溶岩とそこに再び芽吹いた植物のコントラストは、幾度の噴火を乗り越えてきた島のたくましい文化を象徴しているかのようです。また、三宅島には希少な野鳥や巨樹が多く存在していることでも知られ、国内外の自然愛好家から注目されています。

島の南端にある「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」は、三宅島の環境保全と教育普及を目的とした自然体験施設です。館内の展示スペースでは、島の野鳥や海洋生物、また火山活動や伊豆諸島に生息する天然記念物のツグミ「アカコッコ」の生息状況などについて紹介しています。施設内の観察室では「アカコッコ 」をはじめ、さまざまな鳥を観察することができます。また、日本野鳥の会のレンジャーが常駐しており、三宅島の幅広い自然情報の提供や調査・研究を行っています。

アカコッコ館では、春にはバードウォッチング、夏には海の生き物観察など、年間を通して三宅島の自然と触れ合えるイベントも開催しています。日本野鳥の会、三宅島野鳥公園担当の内藤明紀さんは、「観光客に自然の美しさや素晴らしさを感じてもらい、自然を守らなければという気持ちになってもらうことが大切です。」と話します。内藤さんお気に入りの場所はアカコッコ館近くにある大路池周辺です。そこには樹齢600年を超える「迷子椎（まいごじい）」と呼ばれるスダジイの木が生えています。スダジイとは、島の森を埋め尽くす常緑樹のことで、島の神様として崇められています。「スダジイの森ではたくさんの鳥のさえずりに耳を傾け、巨樹を眺めることができます。鳥をはじめとした多くの生き物が住む環境を守っていくことで、いつまでも人々が自然を満喫し、自然の偉大さを感じられる島であってほしいです。」と内藤さんは語ります。

アカコッコ館ではイベントやハイキングツアーの中で、ガイドが自然界でのマナーや環境を壊さずに自然を楽しむ方法を教える環境教育活動を行っています。また島内各所に設置されたブースでも情報を発信しています。例えば山だけでなく海も魅力の三宅島において、夏に行われたイベントではサンゴの保護について説明をしました。「参加者の中には岩と珊瑚の違いについてよく知らない人もおり、このツアーで初めて珊瑚を踏んではいけないということを知ってくれたようです。」と内藤さんは説明します。このような取組は、島の自然環境を守り向上させるための重要な役割を果たしています。

アカコッコ館最大のイベントのひとつが、絶滅危惧種であるアカコッコの生息環境を改善するために毎年開催される「アカコッコの森づくり」です。島内外から集まった人たちが下草刈りや水場づくりを行い、アカコッコが好きな餌であるミミズや小さな虫が生息できる環境を整えます。このイベントは三宅島の自然に触れることができるだけでなく、アカコッコをとりまく生態系にも良い影響を与えており、訪れた時よりも地域・自然の状態を改善することで、「再生旅行」の本質的な意味を持つ取組となっているのです。

ウミガメと小笠原

東京から約1,000km南に位置し30ほどの小さな島々からなる小笠原諸島は、東京都に属しながらも本土とは異なる亜熱帯気候に属する島々。日本の中でも他に例を見ない独自の生態系を発達させた海洋島であり、希少な動植物の宝庫として知られ、都心とはまるで別世界かのようです。島の青く美しい海や緑豊かな森や山では、シーカヤックやスキューバダイビング、ハイキングなど、雄大な自然を存分に楽しむことができます。

一度も他の大陸と陸続きになったことがない小笠原諸島では、生物が独自の進化を遂げており、他の地域では見ることのできない、多くの絶滅危惧種が生息しています。そんな小笠原の貴重な海洋環境を守るために調査・研究を行っている小笠原海洋センターでは、さまざまな環境保全活動が行われております。特にアオウミガメの保護活動に力を入れていることから、「カメセンター」の愛称で親しまれています。小笠原諸島は、アオウミガメの日本最大の繁殖地なのです。

小笠原海洋センターは観光客と小笠原の海の生き物をつなぐため、セミナーや体験イベントを数多く開催しています。「自然保護について理解してもらうために最も効果的なことは、特別な思い出を作ることです。心に残る何かを感じてもらうことが必要なのです。」と小笠原海洋センタースタッフの北山知代さんは言います。たとえばウミガメ教室では、ウミガメの生態や現状を学ぶだけでなく、餌やりや甲羅磨きなどを通じてウミガメと触れ合うことができます。イベント終了後、興味の深まった子どもたちは、「将来は海の生き物に関わる仕事がしたい！」と興奮気味に話すこともあるようです。

小笠原海洋センターで最も人気のあるイベントのひとつが、ウミガメの卵を埋める体験イベントです。小笠原諸島父島の大村海岸には、毎年多くのウミガメが産卵に訪れます。自然界では夜に卵からかえったウミガメの赤ちゃんは、海から発せられるほんの少しの光を道しるべに浜辺をまっすぐに進んでいきます。しかし、近年では周辺施設の明かりなど海岸付近の光の増加により、ウミガメの赤ちゃんが海ではなく街明かりに導かれてしまい、迷走してしまうことがあるそうです。そのため海洋センターでは、大村海岸で産まれた卵を保護し、施設内の産卵場に移し替える取り組みを行っており、観光客はその卵を埋める体験ができるのです。さらに、ある程度の大きさに育った子ガメを海に放つ放流イベントも開催しています。これらのイベントは、観光客が楽しみながらウミガメの保護活動を支援できる「再生旅行」の代表例と言えるでしょう。「このようなイベントを観光客の方々はとても喜んでくれます。」と北山さんは言います。

小さな一歩が大きな変化へ

東京の島々は、小さいながらも手つかずの自然や野生生物、文化的魅力にあふれ、多くの人々に観光地として親しまれています。多くのビルが立ち並ぶ都心と同じ東京でありながら、遠く離れた場所で豊かなコミュニティと生物多様性を育んできたこれらの島々では、そのレガシーを守るためにサステナブルな旅行を観光に取り入れるようになりました。観光客が島の自然保護活動に参加することで、人と自然、そして野生生物との共存を維持し、島をより良い未来へと導いてくれます。また、このような旅行を通じて芽生えた「再生旅行」への意識の広がりは、東京、日本、さらには世界のより良い変化へとつながっていくことでしょう。